第2話  白いごはん

その男は向かいの席でおいしそうにごはんを食べる。本当においしそうにごはんを食べる。白いごはんだけを。のりもゴマ塩もふりかけも梅干しも何ものってないシンプルな白いごはん。途切れなく口に運んで。

最初はふつうに瞬きしながらみてたけど、だんだんその単調な動作にみとれてしまった。それは大ぶりの長方形のお弁当箱にギュウッとしっかり詰め込まれたごはんで、場所は教室でも食堂でも公園でもなく、井の頭線(渋谷〜吉祥寺間を走る私鉄)の電車の中。平日のお昼近くの下りの各駅停車の電車は、抜けた歯のような間延びした空席があり、その青年(たぶん沿線の大学生なんだろう)は、斜めがけした青いビニール袋からおもむろにバンダナにくるまれたお弁当箱を取り出し、一緒に入ってた箸でごはんを食べはじめ出した。

我慢できずに、車内でパンやお菓子とかを食べる人はよくみかけるけど、白いごはん一本槍で黙々と食べるのははじめてみた。途中でペットボトルのお茶を飲むわけでもなく、ただひたすら前進する兵隊のように着実にごはんを攻め落としてるのだ。

終点の吉祥寺駅に着く3つくらい手前の駅あたりで、何事もなかったようにきれいにごはんを食べ終えてお弁当箱と箸をバンダナでくるんでしまう彼に、思わず拍手しそうになった。マナー以前なんだけど、ある種の潔さに感銘を受けてしまった。むせもせず、おいしそうにごはんだけを食べる人を生まれてはじめてみたから余計なのかも。

しばらく経った或る夜、同じ井の頭線の上りの車内の向かいの席で、若い女性が透明の総菜パックに入った五目春雨を割り箸で、ごく普通に食べ始めた。お昼と違って車内はそれなりに混んでたけど。わたしが下北沢の駅に降りる頃には、すんなりと完食していた。

白いごはんの彼と五目春雨の彼女が、恋人同士だったらおもしろいだろうなあとちらりと想像してみた途端、急におなかが空いてきた。

 
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