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| 第4話 水の女 | ||||
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| 「お水をちょうだい」「おねがい、お水を・・・ちょうだい・・・」 | ||||
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ってドア越しに言われたら、どうしますか? 「お水をちょうだい」 と、玄関のドアの向こうから聞こえてくる。 え?ウチ? |
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って思いながら恐る恐る(ちょっと怖かったし)ドアの覗き穴から覗く。わたしの部屋は廊下の一番奥まったところにあり、隣りの部屋に対して直角にドアがある。覗いてみるとウチではなく、隣りの部屋の前のドアに若い女の人がこちら側に背を向けて蹲っているではないか。お酒を飲みすぎて酔っぱらってカレのところに来て、お水を欲しがってるのかと思った。実際、そんな風に見えた。ふ〜んと思って、覗き穴から離れようとしたら「ねえ、おねがい。お水だけでいいの。開けて」としっかりした口調(あきらかに酔っぱらってなんかいない)で、切々とドアをノックしながら訴えてる。もしかして本当に具合悪くなって(立てないぐらいに)困っているのかもしれないと思い、お水を持っていった方がいいのかどうしようかと様子を見続けてしまう。音を発てないように気をつけながら、ドアから動けなくなってしまった。まさかその時はそれから30分近くもそのままの姿勢でいるとは夢にも思わなかった。 明らかにその部屋には、カレがいるのだ。だからカノジョはずっと訴えかけていたのだ。でも決してドアが開くことはなく、まして部屋の中から声が発することもなく、時間だけが律義に過ぎ去っていく。このままカノジョはそこで一夜を明かすのかな、水も飲めずに冷たくなったらどうしようとだんだん不安になった矢先、今まで力なくドアに凭れ掛かり蹲っていたカノジョがすくっと立ち上がて、座りジワのついたスカートの裾をパンパンとはたき、バッグを肩にかけ、気を取り直した兵士のように背筋を伸ばし、その現場からしっかりした足取りで去ってゆくではないか。 え?じゃ今までのは演技だったわけ?そういうことか!! 今どきの恋愛ドラマなんて比じゃない、迫真の演技だった。観てたのはわたし一人だけど。一途に熱いのだ。熱いけど竹を割ったみたいに潔いのだ。絶妙な力加減。そして心から諦めてしまったのだ。カレのことを。一度もカレの部屋のドアの方へふり返ることなく、ヒールの音にすべての感情を込めるように、過去を踏みしめるように廊下に靴音だけを残して。 この話はそれで終らないんだな。翌日の同じ時間帯、廊下から男女の談笑が近づいてくる。あ、仲直りしたんだ、と観客一人のわたしが思わずドアの覗き穴に駆け寄り、ハッピーエンドを確かめる。昨日の今日だし。そう、そこには隣りの部屋に住んでる男が女ににこやかに笑いかけながら、ドアの鍵を開けている。女は昨夜の蹲った女と全く違うタイプの女だった。そしてドアの向こうに消えた。ま、よくある男と女の話です。 その次の日の深夜、寝ていたらウチの玄関のドアノブを誰かがガチャガチャと廻してる音が聞こえてくる。存在を感じさせる気配にパックリと目が覚めた。ま、まさか?怖すぎる!怖すぎてドアの方が見れない。 ドアの下から水が・・・だったら・・・。 わたしの体は声も出ないくらい恐怖の水でいっぱいになるのだった。 |
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